8/25付日本経済新聞朝刊の”核心”欄に【患者を救うのは消費税だ】の見出しで編集委員大林尚の署名入り記事がありました。更に大林尚は【病院再生、医療費に課税を】と見出しを続けます。7/20の参議院選挙で消費税減税等を掲げた野党が勝利。大林尚が「消費税課税を」主張する根拠は何なのでしょうか。
清成真一事務所は消費税の課税業者です。毎年数十万円の消費税を納税しています。随分前ですが、消費税課税のことが気になって課税の仕組みを調べてみました。そこで分かったことがあります。消費税がかかる取引以外に、3種類の消費税が課税されない取引区分があることを発見しました。
1つは不課税という区分で、消費税が課税される4つの条件を満たさない為に、そもそも課税対象とならないのです。次は非課税です。非課税取引は課税4条件に当てはまっても、「消費税の性格になじまない」「社会政策的配慮」から課税対象としないのです。この非課税に「社会保険医療の給付等」があります。
課税されない最後は免税で、発生した消費税が0%の取引のことです。インポイス制度が導入された時に、売上高1000万円未満の企業がインボイスに登録するか否かで迷ったのはこの免税という制度があるからです。
ここで投稿を元に戻します。大林尚の主張の要約はこうです。今年1~6月に経営破綻した病院は21。経営危機に当面しているのは開業医の医院よりも病院が圧倒的に多い。特に急性期医療を手掛ける一般病院が厳しい。大学病院も苦しく、多数の病床を有し高度先進医療を得意とする医学部付属病院の収支が急速に悪化しているという。
こう主張されると大病院や大学病院が苦しいのは何故だろうかと考えます。私もそうです。その背景を大林尚は診療報酬に消費税が課税されていないからだというのです。カラクリはこうです。高度先進医療を行うには超高価格の診療機器を揃える必要があります。機材の購入には消費税が課税されています。しかし消費税非課税のルールが適用されて、患者から病院がもらう報酬には消費税が上乗せされていないのです。
要するに高度先進医療を行なおうとすればするほど、支払消費税に相当する資金が院外流出し資金繰りを圧迫させるのです。更に急性期医療を行うとすれば、医師や看護師に支払う人件費も昼間診療時と比べて高くなることは十分に予想されます。
その結果、大病院や大学病院が急性期医療や高度先進医療の現場から離脱することに拍車がかかるのです。これらの不利益は誰が被るのでしょうか。そうです。患者とその家族になることは明白です。だから大林尚は患者の命を助けるのであれば、診療報酬に消費税を課税しろと主張しているのでした。
随分前になりますが、全ての取引に消費税を課税するようになれば、税収が一挙に増えるという主張をみたことがあります。所得税、法人税、消費税の国税主要3税の中でトップは消費税です。概ね25兆円ほどの税収があります。不課税や非課税、免税の範囲をぐっと狭めれば消費税税収はUPします。仮に税率を10%・8%から5%に引き下げても、課税範囲を広げれば税収の落ち込みをカバーできます。
しかし当然ながら、税率は下がっても各納税者が納税する消費税総額は変わらないか又は増税となります。政府や国会議員、霞が関の面々は不課税、非課税、免税の在り方について真剣に議論すべき時期になっているのではないでしょうか。大林尚の主張に腹落ちして私でした。