日本の産業界を牽引する自動車産業。この自動車産業の最大手トヨタと次強のホンダの賃金引上げ交渉が終決しました。組合側の要求に対して満額回答を経営陣が行ったのです。「労働組合側はもっと高く要求すれば良かったのでは」という声も聞こえそうです。集団交渉の一回目で満額回答をしたというのは、世界で戦っている両社の経営陣の危機感の表れと言ってよいでしょう。
本稿では賃金引上げがGDPにどのような影響を与えるのかを数字で検討してみたいと思います。計算を簡単にするため、GDPを10,000とし、個人消費がGDPに占める割合を60%とします。よって実額の個人消費額は6,000となります。個人消費の源泉の過半は給与所得ですが、この割合を80%としましょう。とすると給与所得額は4,800(6,000×80%)となります。
賃金引上げが平均で5%あったとします。給与が5%上がっても税金や社会保険料等の負担も増えます。この割合を50%とすると、手元に残るお金は2.5%分(5%×50%)に減ってしまいます。更に「将来に備えて貯蓄をしよう」と一定割合を貯蓄することで実質的に消費に回るお金は減ります。貯蓄率を20%とすると、消費に回るお金は2%(2.5%×80%)となってしまいます。
このように整理していくと、賃金引上げがあったとしてもGDPを引き上げる消費支出に回るお金は40%((1-税金等控除率)×(1-貯蓄率))でしかありません。本事例では2%(5%×40%)がGDPを押し上げるのです。
先に給与所得を4,800としましたので、賃金が5%引き上がると96(4,800×2%)のGDP押上げ効果が期待できます。GDPが10,000から10,096になるのです。割合としては0.96%で、四捨五入すると1%
でしかなりません。
日本の昨今のGDP成長率は1%から2%程度で推移しています。個人消費がさえない中、GDPの13%強を占める政府支出を増やすことで成長を維持してきました。既に1200兆円に達している政府債務を増やしてのGDP成長はもう止めるべきです。その為にも相当な額の賃金引上げが今年の最大な課題として浮上していると考えているのは私だけでしょうか。