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ふたつの「かんじょう」、感情と勘定

 今日の日本経済新聞に半導体関連の記事が掲載されていました。と書くと、「台湾のTSMCが熊本県にあるソニー半導体工場の隣地に総額1兆円をかけて建設する半導体工場建設のことか」と思われるかも知れません。予想が外れて申し訳ありません。先端半導体の回路を描くために不可欠な「露光技術」に関しハンコ製法で日本企業が逆襲できるかも知れないという記事でした。「何!、これ!」と目が点になりました。技術に疎い私には理解不能ですが、今までにない技術を応用してコストや製造時間で優位性を保とうと言うことらしいのです。

 とここまで綴ってくると、「今日のコラムは半導体のことか?」と思うかも知れません。いやいや、今日は半導体等の技術の話ではありません。過去の呪縛に捉われずに、経営戦略を築いていこうという話をしたいと思っています。半導体は先に米国で隆盛し、1980年代から1990年代までは日本企業が市場で大きなシェアーを獲得していました。その日本企業がサムスンやTSMCなどの外国企業に負けて、日本のシェアーは凋落の坂を下り続けています。なぜそうなったか。1つには挑戦的な気風が日本企業から喪失してしまったという事実があると思うのです。

 「かんじょう」を漢字で書くとすると、どんな文字が浮かんでくるでしょうか。「感情」が一番最初に出できそうです。心の動きが感情でしょうか。主観的と言っても良さそうです。また「勘定」も出できそうです。お金の話で客観的な指標とも言えそうです。経営者は「感情」と「勘定」とを上手に使い分けなければなりません。バランス感覚が求められています。

 経営者で一番苦しい判断は撤退戦略でしょうか、「止める」「閉鎖する」「M&Aで売却する」という場面が想定されます。その際、「関わってきた社員が可哀そう」「これまでつぎ込んできたお金と労力はどうなるのか」と言った感情論に捉われると傷口が拡大し、赤字出血という状況の継続では会社倒産という最悪の事態へと突き進むかもしれません。優しさを前面に出す感情ではなく、ソロバン勘定がこの撤退戦略には必要なのです。

 日本人はともすると感情論の方を優先し、勘定論は後回しになる傾向が強いようです。経営者には「心を鬼にして決断する」という習慣を身に着けて欲しいものです。「撤退する」と決めた後に、感情論から「かかわった社員達の処遇をどうするべきか」と考えていくのです。勘定論一辺倒では冷徹な経営者と思われるかも知れません。しかし厳しい意思決定ができる経営者ほど、自社を未来へ繋げていける可能性が高いのです。

 今の時代はVUCAの時代と言われています。先が読めない時代です。現在と未来は「変動的」「不確実」「複雑」「曖昧」なのです。よって、感情ではなく勘定を優先して意思決定をするべきです。意思決定した後は、感情でしっかりとサポートする。このような二つの「かんじょう」をコントロールできる経営者が率いる会社だけが、勝ち残っていける時代となっています。