ジョブ型雇用、このような文字を目にすることが最近多くなりました。ジョブ雇用とは「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態を指すようです。職務記述書などの文書によって、担当する仕事(ジョブ)の具体的な内容が定められていなければなりません。職務の範囲や権限・責務(義務)もしっかりと明示されていることが前提となります。報酬は仕事の成果に対して支給されるというのが原則です。よって、労働時間に縛られることがなくなるというのが、ジョブ型雇用の推進者の意見の1つです。
ジョブ型雇用は新しい魔法の雇用体系なのでしょうか。本稿ではこの点について言及してみたいと思います。最初にジョブ型雇用の正の部分に焦点を当ててみます。
①自分の仕事の範囲や権限等が明確になる。②成果に対する報酬という意識が浸透すれば、労働生産性が向上する。③成果を出せない社員は退社せざるを得なくなる。その結果、労働市場の流動性が高まる。④自己研鑽等の意欲が高い社員はその成果を昇進・昇格や給与アップという形で叶えることが可能となるる。まあ、こんな論点が推進派から聞こえてきそうです。
次にジョブ型雇用の負の部分に焦点を当ててみます。①成果を上げることができない社員は退職せざるを得ない。解雇権の乱用につながる。②短期的な成果に視点が行きすぎる。中長期的時間軸でないと成果を出せない仕事もある。③自分中心の仕事になり易く、チームワークが毀損する可能性が高まる。④労働時間を基礎に報酬が定められており、労働法制との軋轢が発生する。このような主張が反対派からなされる可能性があります。
全ての事象は正と負の両局面を抱えています。100%正で負は0%の事象はありませんし、また正が0%負が100%の事象もありません。ジョブ型雇用という考えは全く新しい概念とは言わないまでも、日本企業での雇用慣行のベースとなっている「人に対して仕事を割り当てる」という雇用慣行に楔を打ち込もうとしていることは確かでしょう。ジョブ型雇用の導入はある意味は時代の要求なのかも知れません。
労働時間に対して報酬を出すという給与制度は矛盾を抱えています。例えば、高い能力をもって勤務時間内に高い成果を出すAさんと、勤務時間内に仕事を終えることなく毎日残業をしているBさんの2人がいます。入社年や職位が同じとすると、現行法ではBさんの方が給与は高いのです。それは時間外労働割増賃金が加算されるからです。
切り口を少し変えてみます。会社の営業成績(損益計算書)のスタートは売上高です。売上高は販売先が「会社(社員)の仕事の成果に対して支払う報酬」です。仮に契約した納期よりも短く納入され、更に機能が優れていれば高価格でもお客様は買ってくれます。その逆に納期が何度も延期され、ましてや機能が不良となれば、購入してもその後はクレームの大合唱です。価格の値下げ交渉や損害賠償問題へ発展しかねません。このように、売上は仕事の成果に対する報酬という側面があることを確認しなければなりません。
とすれば、労働力の提供という雇用も、ある意味では「成果に対する報酬」という側面があっても良いのではないでしょうか。ジョブ型雇用、新聞、TV、雑誌等々でこのような文字を目にした時は、自社の仕事体系の変革も視野を入れて研究してみるのも良いでしょう。