· 

「ゆでガエル」を考える

 埼玉県川越市に本店をおく東証1部上場の食品スーパー、ヤオコーをご存知でしょうか。関東から遠く離れた九州の大分、たぶん大分県を含む九州人は知らないと思います。私もその一人だったかも知れません。日経MJを購読している私は名前だけは知っていましたが。

 そのヤオコーの会長は川野幸夫さん。その川野会長が日経MJに連載しているのが、「~HISTORY~暮らしを変えた立役者」というコラムです。15回程度の掲載回数で、商業分野で素晴らしい業績を上げた成功者にビジネスライフを語ってもらうというコラムです。

 6月7日のコラムに、川野会長は「2019年3月期まで30期連続で増収増益を続けています」と綴っています。「増収増益を続けている企業としてはニトリさんに次ぐ2位です」とも。会社設立の1957年(昭和32年)から2019年3月期まで減収はなく、減益も数期だそうです。なんと素晴らしい業績でしょうか! 感嘆の一言です。

 このコラムの最後を川野会長はこう締めくくっています。「油断しているといつのまにか『ゆでガエル』になってしまいますから」。

 「ゆでガエル」という言葉を知っていますか。ビーカーに水が張ってあります。そのビーカーに蛙が一匹います。ビーカーの下から徐々に熱して行っても、蛙はその湯温に慣れてきてビーカーの外にでようとしません。「いい湯だな~」の気分満喫です。しかし、このゆっくりとした湯温の上昇が蛙の体力を奪っていきます。とても熱くなっても外に出る力はなくなっており、茹で上がってしまうというのです。勿論、ビーカーに張ってある水が常温ではなく熱湯だと、投げ入れられた蛙はすぐさま飛び出るに間違いありません。蛙であっても死にたくはないでしょうから。

 経営者は経営幹部や従業員に、経営リスクを語っているのでしょうか。残念ながら、従業員は日々の仕事に精出すことで満足していることが多いものです。「えっ、会社が倒産する?!」と考えることは皆無に等しいでしょう。

 ヤオコーは関東圏で厳しい同業他社の競争、そしてアナゾンを代表とするネット販売の脅威にさらされているのです。ちょっとの気の緩みで「今日の勝者は明日の敗者となるかも知れない」という危機感を経営者が強く持っているのでしょう。そしてその危機感は末端のパートタイマーまで染みわたっているのに違いありません。その結果が30期連続で増収増益という業績に表れているのです。