· 

数字の魔術(実質賃金と総人件費)

 厚生労働省発の不適切な統計処理の話題が毎日、ニュースとして飛び交っています。出るわ出るわのお粗末な対応の連続。コンプライアンス(法令等遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)と言った企業経営では当然至極の決まり事が「霞が関では実践されていない、いや無視されている」という事実に驚きを隠しきれない企業経営者は多いと思います。

 ところで「偽装アベノミクス」と声高に主張する野党の主張は、「実質賃金の伸びがマイナスとなっている」点に集約されるでしょうか。ところで、実質賃金の算出方法は”賃金(給与)総額÷総給与所得者数”です。分子が増えても分母がそれ以上に伸びると実質賃金は低下することになります。なお分子、分母とも正社員(正規労働者)だけではなくパートタイマー等(非正規社員)も含まれています。この点を絶対に忘れてはいけません。

 景気回復(!?)の中で人手不足が深刻です。有効求人倍率も1.5倍をず~と超えています。企業は人手不足を正社員で対応すると、人件費の固定化が進み、若し業績悪化した際に人件費圧縮への取組ができなくなります。その恐れの感情は経営者の心の隅に常に宿っています。

 そこで、人員不足をパートタイマーの補充という形で実行することが多いと思います。総従業員の中で非正規労働者が占める割合は4割になろうかとしています。これらのことから、分子(賃金(給与)総額)の伸びがある程度抑制されつつ、分母(給与所得者)の数は伸長しているのが実態なのです。従って、実質賃金の伸び率はマイナスを記録することは当然のことだと言えます。二つの変数による相対値である実質賃金の伸び率だけを指摘して「偽装アベノミクス」と指摘するには腑に落ちません。

 政府が反論する総給与所得(総人件費)の伸び率の方が、実質賃金伸び率よりも経済の状況を判断するには適していると言えるでしょう。これがマイナスになっているとすれば、GDPの6割強を占める個人消費の低迷・衰退が連想され、よって不況へと進んでいることが分かります。実質賃金は家庭経済(ミクロ)、総給与所得は総国民経済(マクロ)に夫々焦点を当てた指標ともいえるでしょう。

 このように、ある数値、指標だけを捉えて「良し」「悪し」と断定できないところが、数字の魔術というところでしょうか。経営者は複眼的、多角的に多様な数値を診て、正しい経営判断をして頂きたいものでする