私が定期購読している日経MJの5月8日号に興味深いコラムが投稿されていました。[円安前提の経営]のタイトルで、東京大学名誉教授の伊藤元重氏が投稿者です。現在の円安水準は1972年(昭和47年)の対ドルレート308円とほぼ同等だというのです。「えっ」と驚きを持ってこのコラムを読み進めました。
伊藤元重氏は2010年を100としたときの円とドルとの対比指数を上げて説明しています。1972年からの50年間で一番円が強かったのは1995年(平成7年)の150だったようです。私事になりますが平成7年と言えば、私が中小企業診断士の資格を登録して経営コンサルタントして本格的な歩みを始めた年でした。その時はバブルが崩壊したものの、円の実力は相当強かったのです。
ところが、円安が進み130円前後の攻防となっている現在は、66.5(2月現在)にまで落ち込んでいると伊藤元重氏は指摘します。150から66.5へ、44%水準へと物凄い急落です。名目レートでも一時は80円という時期がありましので、現在の130円は60%もの下落ということになります。日本人としての自尊心・誇りが雲散霧消してしまいそうです。
伊藤元重氏は「単に賃上げや物価上昇が唯一の解決策ではない」と指摘します。円の実力低下が30年も続くデフレが影響要因の一つであることは確実でしょう。よってデフレ対策をすれば円の実力は回復しそうだと短絡的に考えてしまいそうです。伊藤元重氏はこれを是としながらも論調は続きます。経営者の会社経営のあり方を根本的に変える必要性を強く訴えるのです。
これまでは円高だからとお客様ニーズに応えて安価に商品を提供しようと経営者は考えてきました。しかし円安基調が明確になってもなお、この考えを改めていません。需要喚起の為に「更に安く」を追求しています。仕入価格や製造原価が上昇し続けているというのに。コスト上昇分を販売価格に転嫁することは容易ではないかも知れません。しかし経済界、いやある意味では政治や労働界も含めて、日本国存亡の為にも経済活動のあり方を見直す時期にきていると思うのです。
「脱皮しない蛇は死ぬ」といいます。日本経済にとってはその時期は過ぎているかもしれません。しかし変わろうという強い意思があれば変わることは可能です。「遅すぎる」と考えずに「まだ時間がある」と考えて考働してほしいものです。